タイトル
「縫い裁つ人」
プロローグ
神戸の街を見下ろす坂の上にある「南洋裁店」。
店主の市江(いちえ)が仕立てる服は、いつも大人気で
すべて、昔ながらの職人スタイルを貫く
手作りの一点ものです。
そんな中、神戸のデパートに勤務する藤井は
市江にブランド化の話を持ちかけます。
ところが、まるで”頑固じじい”のような彼女は
全く興味を示しません。
市江が手掛けるのは
祖母で一代目が作った洋服の、仕立て直しとサイズ直し。
あとは、先代のデザインを流用した新作を、少しだけ…。
「世界で1着だけの、一生もの」―
それが、市江の繕い裁つ服が愛される理由でした。
しかし、洋裁店に通いつめた藤井だけは
市江の秘めた想いに気付いていました。
やがて、彼の言葉に、彼女の心は
初めて揺れ動くのです…。